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松風直美さんギャラリートーク 2016年10月8日 於:北鎌倉古民家ミュージアム

●日本招き猫大賞作品「Book of dreams」について 

昔から大切にしていた洋書・アンデルセン童話集のページが黄ばんで来たりして処分しようかと思ったけれど、これもひとつの素材と思いついたところから作品にしてみました。ふだんの切り絵とは全く違いますが、「カミノモノツクリ」を名乗っているように、自分にとって紙は作家として活動を始めて以来の大切な素材。結果的にこの作品で大賞を受賞したことは大きな驚きでした。大作というよりはちょっとふだんの自分を離れて冒険してみた作品、自分の「好き」を追求したものだったので。

●大賞受賞記念個展「ねこばけ」について

妖怪というか、あやかし、不思議な存在が子どもの頃から好きでした。いつかかたちにしたいと思っていたので、よい機会をいただけたと思っています。浮世絵とか古文書とか、興味のあるものを詰め込んでみました。化け猫はもちろんですが「付喪神(ツクモガミ)」がテーマになっています。「付喪神」って日用品などの道具が99年使われて古くなると命を持つ、というものなんです。いたずらもするけれど、時にいいこともする。だから古いものを大事にしましょう、という昔の人の教えが込められていて好きなのです。骨董屋さんで見つけた道具などからイメージを広げました。羊毛フェルトなど、切り絵とは違う方法でトライしたのも刺激になってよい経験でした。ふだんやらないことをやるのって大変だけど楽しかった!

 例えば、この作品では糸車と黒猫が一体化しています。「猫が紡がれている」状態です。私も猫飼いですが、猫の毛ってよく抜ける。あれを何かに利用出来ないかなあと思っていて、骨董屋さんで古い糸紡ぎの機械を見つけたときに「これだ!」と。実は羊毛フェルトを刺すのも初めてだったんです。猫は実物より大きいくらいなので時間はかかりましたが面白かったです。

 切り絵というものは時間をかけてコツコツと切って行けば、それなりにかたちになっていくものですが、「雨招き」は、今回の作品の中で切り絵の技法的にいちばん難しいテクニックが使われています。降りしきる雨足の細い線を残して切るのが難しいのです。

 猫はいたずらっ子というイメージがあります。古い箱や三三九度の酒器、鉄びんなどから猫が「ばあっ」と出て来たら面白いかな、と思って。箱にみっちり詰まっているのは羊毛フェルトの猫面、酒器や鉄瓶は切り絵と取り合わせました。平面の切り絵は額装して飾ることが多いですが、こんなふうに転がしておくのもありかなと。飾り方もちょっと冒険してみました。

 こけし、古いこけしに猫がいたずらして顔を描いたらどうなる?という作品なのですが、化け猫顔と後ろのフタマタのしっぽは切り絵でできています。元々の絵付けを生かしたところもあって、猫の目は元のこけしの目なのです。そんなところも見ていただけるとうれしいですね。 

「化猫嫁入り」連作では、画面のどこかに必ず「玉子の妖怪」が隠れています。これ、江戸時代の資料にも登場しているのですが、今回、いちばんのお気に入り! いつもちょっと困ったような顔をしています。ぜひ探してみてください。

●質問コーナー

「切り絵はどこから切り始めるか、ご本人の癖というか決まったやり方があるのでしょうか。それとも、作品のテーマやサイズによって違うのでしょうか」

「中央から端へ切り進めることが多いですが、画面に沢山の猫が登場したりする場合は顔から先に切りますね。やはり顔が命なので、最後にしてこれがうまくいかないと作品が成り立たないので」

「切り絵の大きさに限界はありますか」

「基本は1枚の紙を切って行くので、紙のサイズが基本となりますね。私は主に和紙を使っているので和紙の大きさに左右されます」

「切り絵というと、一筆書きのようにひとつながりのもの、というイメージがありますが、嫁入りシリーズのようにいくつかのパーツを組み合わせて構成する、という手法もあるのでしょうか」

「そうですね、一般的にはひとつながりのもの、と認識されているかも知れませんね。このシリーズはある程度の大きさが必要だったということと、もう一点、あえて余白を多く取ることで物語の奥行きを表現したかったということもあります」

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